軍艦アパート未発表作11
「7号棟中庭」
この中庭になっているスペースへ踏み込むのは、最初おそるおそるだった。隣の8号棟の中庭にある壊れた稲荷社を横切っていかねばならなかったからだ。軍艦アパートの本格撮影はこの場所から始めた。出会った住人すべてに挨拶をしながら撮っていたが、さすがに夜の撮影者に対しては怪訝な表情だった。それでも撮影をとがめられるようなことはなく、ありがたかった。
いまにも崩れそうなレンガ塀の影にカメラを据えて考えていたことは、撮影のことよりもトイレの心配だったような気がするが、それは撮影前に飲んだビールの報いだからしかたない。飲んだほうが景色が美しく見えるという効用もあると思うが、飲み過ぎるとカメラ操作を誤るのも当然だ。
しかし、ピント合わせを忘れるというのは、いくらなんでもアホである。そんなアホでもだんだんと軍艦アパートの雰囲気にも慣れ、撮影は続いていった。その原点というべきこの7号棟の中庭は、無くなったいまでもいちばん印象深い。なにか清浄な雰囲気に包まれていた気がするが、写真を見るたびにその理由を考えている。
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