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2007年10月12日 (金)

軍艦アパート未発表作6

Mg_4258

「4号棟屋上」

2006年の1月初旬、下寺住宅の住民は、近所に建った新築の市営住宅への引っ越しを開始した。

1月中にほとんどの部屋が引っ越すものだと思っていたら、名残惜しいのか、2月にはいってもずいぶんと部屋の灯りが残っている。よく観察していると、夜間でも、台車に荷物をのせた住人が下寺住宅と新築住宅のあいだ数百メートルを行き来している。

ようするに、とてもゆっくりした引っ越しだったのだ。この期間は家が二軒あるようなもので、必要品と不要品を新旧の家に振り分け、空いた部屋に寝ればいい。かくして下寺住宅内は、徐々にゴミの山と化していった。

3月にはいると、さすがに灯りの数もわずかになった。記憶が正しければ、3月8日が下寺住宅に出入りできる最後の日だった。この日の夕方、7号棟の元商店だった部屋の扉が少し開いていた。中を伺うと、おばあさんがひとり佇んでいる。わたしは、部屋の撮影を申し出ることをやめ、そっとその場を離れた。

暗くなって、その部屋の前を通ると、もう開かれることのない扉には、しっかりと鍵が掛けられていた。

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