「8号棟屋上」
下寺住宅各棟で、屋上の有り様が違っていた。イナバ物置やバラック建て増しが乱立したところもあれば、きれいに整頓されたところ、引っ越しゴミに埋もれたところもあった。
この8号棟は、いちばん緑が多かったように思える。プランターからはみ出た植物は古くなったコンクリートに根を下していた。屋根の浸食面を糊塗したコールタールはひび割れ、夜の光に木炭画のような艶やかさを見せていた。
そういうデティールに宿る深遠さに後ろ髪をひかれながら、先に資料性のある写真を撮るのが精一杯だった。もっと時間があればと今更ながらに悔やまれる。いや、時間はあったはずだ。何年、何ヶ月も。
コメント
なによりも折れ曲がった物干しの柱が幾重にも乱雑に修理されているのに魅かれます。まだ使える、もっと使おうという、それが倹約の精神なのか、ものぐさなのか…。
すり減ったスチロール箱の角と共に、過ぎ去った生活時間を想像しました…。
投稿: TOOLKIT | 2007年10月 2日 (火) 09時42分
もう、体裁なんて関係ないという感じでしたね。それがまた、人が住んでいるのにかかわらず、廃墟然とした雰囲気を醸し出していました。
私は初めて軍艦アパートを見たときは、てっきり廃墟かと思いました。
投稿: なかひがし | 2007年10月 2日 (火) 21時19分